第87回 もう個別化治療とはいわない?2024:12:29:16:15:34

産経新聞大阪本社 地方部編集委員 北村 理

過日、腫瘍内科の医師にお話を聞いていたら、「最近のがん治療は毎年のように新しい治療が生まれていて、そのうち個別化治療とかいわなくなるかもしれないね」と言い出した。
個別化治療とは、国立がん研究センターの「がん情報」の記載によると「がんの種類だけでなく、遺伝子変異などのがんの特徴に合わせて、一人一人に適した治療を行うこと」とある。

今がまさにそういう時代なのかと思っていたら、前述の医師は「ある一群のがんの素性は遺伝子変異の解析により分かるようになって、その一群のがんにはある特定の治療が効くことがはっきりわかってきた」という。だから、一人一人の患者によって治療方法が異なるわけではなくなってきたから、それはもう個別化治療とはいわないのだという。

また、血中のがん由来のDNAを調べるリキッドバイオプシーの進展によって、治療後の再発のリスクの検査が血液で早く行われるようになって、不必要な治療を避けることができるので患者の負担軽減につながる。そのうち、治療後のがんの検査に、画像診断は必要なくなるかもしれないとも、前述の医師はいう。

2024年の大腸がん治療ガイドラインをみてみると、外科、内科、放射線科の役割が分担されているのではなく、混然一体となっている感がある。まさに医学・医療の総力戦でがんを叩きに行っている印象をもつ。いくつかの治療について、各専門分野の医師による「合意率」が導入されており、それぞれの治療についての推奨度が書かれているのだ。

最近のすさまじいがん治療の進展により「がんの撲滅も」という声も聞かれるが、前述の医師は「高度化しているということは裏を返せば、医療を行う施設間格差が広がっていることも意味する、それだけに患者さんは自分で治療を受ける施設を判断できる力が求められる。またがん治療はどれだけ進展しても、息の長いマラソンのようなイメージで治療を受けてもらわないといけないことは、今も変わらない」という。

定着しつつある個別化治療という言葉を覆す理解はまだ及ばないが、件の医師の最後の言葉は真実をついていると受け止めた。

<2024/12/29 掲載>