第85回 早期発見で治る!?2024:10:30:05:30:35

産経新聞大阪本社 地方部編集委員 北村 理

家人に神戸市からがん検診案内のはがきが届いた。
なにげなくみたら、デカデカと「がんは早期発見すれば90%以上が治ります」と書いてある。え、早期発見したらがんは治るの??

神戸市は政令市である。しかも医療産業都市を宣言している(病院の医療過誤が目立つ近年、市民はそう思ってないけど...)そんな神戸市が市民へのがん啓発で誤った情報を流すのだから、行政の医療意識のレベルが知れようというもの。

「がんが90%以上治る」というのは、検診で早期発見→精密検査→適切な治療→定期検診の受診も含め適切な療養生活の継続がスムーズにできての話である。早期発見だけで、がんは治らないし、検診で分かるがんはごく一部のがんに限られる。検診を受けても、100%がんが早期発見できるわけでもない。

ハガキの中面をみると、さらにいらぬことが書いてある。「がんが進行すればするほど生存率は大きく下がります」とな。余計なお世話である。それこそ、がん医療の近年の進展で、ステージⅢ~Ⅳのがんが治るもしくは抑制され社会生活が継続できるケースが増えているし、そもそも、人の健康状態などひとりひとり全く異なるから、治療の効果などケースバイケースなのだ。

つまり、神戸市がいうところの「がんは早期発見すれば90%以上が治ります」いうことが実現できるとしたら、あたかも「がん検診を受けるのが市民の責任」とばかりにがん検診の啓発するのではなく、がんと分かってから、市内の医療機関で(もしくは適切な連携で)、前述した「精密検査→適切な治療→定期検診の受診も含め適切な療養生活の継続」のスムーズな医療の治療やケアの流れが提供できるかどうかにかかっている。

この記事を書いているのは衆院選挙投開票日の前日だ。与野党どの候補の公約をみても、そんなことはどこにも書いていない。嘆かわしい限りだ。

<2024/10/29 掲載>