第81回 初めての入院体験2024:06:30:15:54:39

産経新聞大阪本社 地方部編集委員 北村 理

齢(よわい)、60過ぎて、初めての入院を経験した。
これまで、子供のころから、けっこう乱暴なことをしてきたが、骨折ひとつすることなくすごしてきた。しかし、貧血で足腰が動かなくなったのだから、今回ばかりは観念した。
幸い、一晩、輸血(これまで1回しか献血したことないのに)をして、入院翌日には、ふだんどおりで、めまいをおこしてふらつくこともなく、自力で歩行できた。
しかしながら、それはあくまで自己判断であり、医療側からみれば、ふらつきで転倒などを注意すべき対象である。

2日目からコンビニへ行きたいといい、電話するためにベッドをはなれたりする(ナースステーションで許可を得たが、担当の看護師さんでなかったため、厳重注意〝処分〟)ものだから「要監視対象者」となった。あまりに退屈なものだから、看護師さんの生態観察をすることにした。1週間の入院中、のべ30人ぐらいの看護師さんのお世話になった。夜間はベテランの看護師さんが担当なので全く問題はない。昼間は、新人さんから中堅までさまざまな看護師さんが担当となるから、観察のしがいがあった。

車いすならコンビニオーケーというので、やむなく乗ることに。押してくれたのは今春入ったばかりの新人さん。話しながら行くと、「ドーン」と大きな音がした。車いすが病棟からエレベーターホールに抜けるドアにぶつかる音だった。新人さんいわく「自動であくはずなのにな...」。確かにそうなのだが、取っ手を押すと自動で開くドア。帰りも病棟を一周して無事ご帰還。「なかなか覚えられなくて」と申し訳なさそうな新人さん。

別の新人さはもっと豪傑だった。薬の袋をどさっと目の前において、「飲んでおいてくださいね」と、風のように去ってしまった。さすがに何の薬か分からないのに飲むわけにいかない。
入れ替わり入ってきた中堅の看護師さんに「これ何の薬?」と聞くと、けげんな顔をしている。「説明がなかったんで」というと、また新人がやったな風に目が光った。翌日、薬剤師さんを呼んでいただくことになった。

薬の量を間違える看護師さんもいたが、みていると、毎日まあ忙しいこと。一日中立って、ナースコールが鳴るたびに患者さんの間を飛び回っている。病棟には、食事や便の管理、ドクターやリハビリの理学療法士さんらも一日中出入りする。それらを、全部目配りしているのが看護師さん、頭が下がる思いをした。

入院患者といえども、お任せでなく、分からなければきく、病棟のルールを守るなど自己管理が必要だと感じた。医療者の負担を軽減することで、エラーも少なくなるのではないか。
医療の取材を長年しながら、初めての入院を経験し、貴重な経験になったと思う。

<2024/6/30 掲載>