第80回 あらためて考える医療の今2024:04:30:22:47:43

産経新聞大阪本社 地方部編集委員 北村 理

現代の医療は多職種による役割分担が必要だ、とはよくきく。
とはいうものの、「役割分担」を口にする医療者によって、その意味するところは、微妙に異なるような印象を持つことがある。

昨年の看護学会での会長あいさつで、大阪看護協会の会長から日本看護協会の会長に就任した高橋弘枝さんは、多職種連携のことに触れ、「気づかぬうちに職域の壁をつくっていませんか」と呼びかけた。
医療者は、どの職種も専門職であるから、それぞれの職務に忠実であろうとすればするほど、ある種の壁は生じるだろう。しかし、その壁のありように変化が生じてきているのではないか。多職種連携が必要とされるようになり、ある種の壁はありながらも、医療の各分野の「融合」が進んでいると感じる。

その背景には、医学の進歩や、様々な医療・介護技術の進化、グローバルな情報化などによる医療の各分野の進展があるだろう。効く薬が少なかった半世紀前には、医学は医師による独占状態であった。今や、看護、介護、リハビリ、薬学など医療の各分野で、それぞれの立場で、医療における独立性を高めてきている。

一方で、半世紀前に教育を受けて医師になった世代は、役割分担とは口にしながら、まだ、多職種の「融合」に抵抗感をぬぐえないこともあるのだろう。それは、かつては医師が医療の責任を一身に負わされてきたことへの責任感と呪縛からくるある種のプライドがある。それらは、医療の他の職種に向けたものだけではなく、若い世代の医師に向けられるものであり、世代間ギャップすら生じさせている。

外科では、もはや開腹手術を経験しない世代になってきている。そしてそのことを、過去20年の医学の進歩のなかで経験を積んできた指導的立場の医師たちは当然のように受け止め始めている。患者のためなら、もはや外科手術は不用だとまでいいきる外科医もいるほどだ。前述した看護協会会長のコメントの真意は、「いつも患者さんのことを考えて仕事をしていますか?」という問いでもある。
医療の各職種が「壁」を乗り越え「融合」を目指すには、なにより患者からの声が必要とされているということだろう。

<2024/4/30 掲載>