第1回「希少がんホットラインを知っていますか」2024:03:31:00:05:44

医療ライター 福島 安紀

今回から「大阪がんええナビコラム」で連載を始めさせていただきます医療ライターの福島です。私は、30年以上に渡って、がんの治療やがん対策などの医療記事を雑誌や書籍、新聞などに書く仕事をしてきました。甲状腺がんだった父(享年80歳)を2011年に亡くした、がんの遺族でもあります。

最近、ライフワークのように続けているのが、希少がんについての情報発信です。希少がんは、年間発症数が人口10万人当たり6例未満のまれながんのことです。国立がん研究センターの最新がん情報(2019年)によれば、10万人当たりの患者数は女性に最も多い乳がんで150人、男性に最も多い前立腺がんで154.3人、大腸がんで143.1人ですから、10万人当たり6人未満がいかに少ないかが分かります。

ただし、希少がんに分類されるがんは190種類以上あり、がん全体の2割を占めるとされています。しかも、患者数が少ないために、診療・受領上の課題が多いにも関わらず情報が少ないのが実情です。患者数が少ないため、診断する医師にとっても一生に1度お目にかかるかどうか分からないという希少がんもあり、診断が難しく、適切な病理診断や治療にたどりつくまでに時間がかかることも問題です。

「希少がんかもしれない」「まれながんだと言われたけど、どこで治療を受けていいのか分からない」というとき頼りになるのが、希少がんセンターのある病院に開設されている相談窓口の「希少がんホットライン」です。大阪では、大阪国際がんセンターが、2020年4月に西日本初の希少がんセンター(https://oici.jp/hospital/department/rarecancer/)・希少がんホットラインを開設し、月曜日から金曜日(祝日は除く)の午前10時~午後4時まで、専任の看護師(または社会福祉士)さんが電話での相談に応じています。

まれながんの場合には、患者数の多いがん以上に、治療経験数が多い病院を受診することが重要です。治療経験の少ない病院では、希少がんの確定診断に重要な病理診断に誤りが生じるリスクがあるなど、適切な診断・治療につながらないことがあるからです。

希少がんホットラインに相談すれば、施設別がん登録件数システムのデータをもとに、そのがんの治療症例数が多い病院や患者会の紹介もしてくれます。利用料は電話料金のみ、患者さん本人はもちろん、家族、友人、医療関係者などの相談も受け付けています。

実は私も5年くらい前、右腕に腫瘍を発見し、脂肪や筋肉などにできる希少がんの「軟部肉腫」ではないかと慌てたことがありました。そのとき頼ったのが、国立がん研究センター中央病院の希少がんホットラインです。ホットライン専属の看護師さんが私の不安を受け止めてくださり、肉腫の専門医をすぐに受診できるように予約を取ってくれました。

その前に近所のがん診療連携拠点病院を受診した際には、恐らく良性の腫瘍だということで、画像検査など詳しい検査もせずに切除を勧められ、手術の日取りまで決まっていました。その後肉腫の取材もして分かったことは、良性か悪性かは触診などでは診断できず、悪性腫瘍の場合には手術の仕方も異なるということです。結果的には良性腫瘍と診断されたものの、肉腫の専門医には、「画像検査さえしないでいきなり手術をするのは危険ですよ。医療ライターなんだから、病院選びは慎重にしないと」とたしなめられました。

現在は、大阪国際がんセンターや国立がん研究センターだけではなく、東北大学病院、名古屋大学医学部附属病院、岡山大学病院、九州大学病院も希少がんホットラインを開設し、北海道大学病院でも開設準備が進んでいます。

希少がんの患者さんは、それまで聞いたこともない病名を告げられて不安になることも少なくありません。そんなときも、希少がんホットラインに電話をして、情報集めの相談をしてみるとよいのではないでしょうか。

<2024/3/31 掲載>