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第63回 がん医療に遺族対応の視点を2022:06:04:21:23:45
産経新聞大阪本社 地方部編集委員 北村 理
「泣いていいんですよね」という声が電話の向こうでとぎれとぎれに聞こえてくる。
がんの無料相談室には、ここ数か月、こうした遺族からの相談が増えているそうだ。
理由は、コロナの感染拡大で、面会がままならないまま、がん患者を見送れなかったから。
その過程で、医療者側から、遺族への配慮がなかったから。
がんに限っても、遺族外来という視点は巷間いわれだしてから、15年はたつ。がんだけでなく、災害の被災者および災害で家族をうしなった遺族への心理的ケアはもはや常識になっている。はずだ。
家族を失った悲しみ、満足に見送れなかった、たった一人で旅立たせてしまった悔恨は日にち薬で癒えるという見方もある。しかし、こうした遺族への心理ケアを放置すれば、医療への不信感が生まれてくることを、医療者は分かっているのだろうか。
がん拠点病院には、相談支援センターが設置されているが、利用率は1割に満たないという。
平時においてもそうなのだから、コロナ感染拡大のような非常事態に、役割は望むべくもないといったところだろう。
そうした医療体制の不備を補っているのが、民間のがん無料相談室なのだが、そこにたどりつけない人の方が圧倒的に多いだろう。実際、筆者の身近でそうしたニーズがある人に、連絡先を伝えても、なじみがないため逡巡して、つながらないケースの方が多い。
やはり、患者が治療を受けた医療機関で、がん患者への治療と並行して、家族への心理的ケアが行われるべきだろう。
コロナの経験を糧に、今一度、がん医療において、やるべきことは何なのか問い直し、改善に動いてほしい。まずはこの2年にわたり関わった患者の遺族に相談支援を申し出ることもできるだろう。いまからでも遅くないと思う。がん医療の根幹をなすものとして、患者の負担を軽減する先端医療技術の導入と同等に大切なことだと思う。
<2022/6/4 掲載>