第58回 結局は医師頼みなのか?2021:12:19:07:27:17

産経新聞大阪本社 地方部編集委員 北村 理

前回は、東京のがんの無料相談所の話を書いた。コロナ下の混乱で、高齢者施設から在宅療養に移る際に、飛び込みで、がんの無料相談室へ駆け込み、家族に囲まれて在宅療養できるにいたったという話だった。この、がん無料相談室にかかわっている男性に話を聞いた。男性は、家族ががんで亡くなったということだった。「ほかでも、このような相談室ができるといいですね」と話しを向けると、「実は、がんで亡くなった家族は、多くの人が集まる相談室や患者会に参加することは積極的でなかった」との迷いを打ち明けた。

筆者自身がこれまで本欄で紹介した2つの親族の事例でも、セカンドオピニオンや患者会(ピアカウンセリング)などへ相談をしようとしなかった。2つの事例では、よくよく当事者の話を聞くと、自分の置かれた状況と主治医の話を理解するので精一杯だったという。

結局、しばらくして、セカンドオピニオンには行ったが、がん経験者など、医師以外に相談はしようとはしなかった。2人のうち1人は亡くなり、1人は元気にしている。もっとも最近のことだから、ネットや書籍で経験者の話には触れることができる。元気にしている方は若いので、自分で情報収集し、食事療法も含め自分なりに納得した療養生活を送ったようだ。
もちろん、結局のところは、個人の生活の話だから、それぞれの形があっていいと思う。

しかし、だれもが気軽にいつでも行ける「相談所」がなくてもいいかというとそうでもない。むしろ、医療の現場が今後、病院一極集中から、在宅療養を取り巻く多職種による地域包括ケアが中心になっていく時代では、どのような選択肢がよいのかに対する答えは、病院の医師の能力および責任の範疇を大きく超える。もっともその医療を取り巻く状況の変化をよく理解して、積極的に地域包括ケアへ参画しようという病院や医師も増えてきてはいる。ただ、そうした状況はまだ一部地域に限られており、地域包括ケアが成熟していく過程において、冒頭で紹介したような、患者が地域でよりよい療養生活を送れるような無料相談所は必要になってくるのではないかと考えている。

<2021/12/19 掲載>