第57回 人生、紙一重2021:11:09:06:03:43

産経新聞大阪本社 地方部編集委員 北村 理

コロナ禍のさなか、まちの無料健康相談所に1本の電話があった。
この相談所は、そのまちに在住しているフリーのコメディカルが詰め、地域住民の健康相談を受けている。
相談内容は、老健施設に入居している母親の微熱がさがらず、腹痛を訴えているという。
当該の施設では原因が分からず、家族は市報にのっていた相談所の電話番号にともかくかけてみたという。

相談所では、施設に最寄りの訪問看護に繋ぎ、様子をみにいってもらった。そして、その訪問看護と連携している病院で受診することとなった。結果は末期の大腸がんで腸閉塞を起こしかけていた。
しかし、病院に入院すると、コロナで面会は制限されるという。そういう状況下で合併症をもつ高齢の親に手術、治療を受けさせても...と考え、訪問看護と相談し、自宅に引き取ることとなった。
以降在宅で緩和ケアを受け、2か月ほどして家族に看取られ亡くなったという。

在宅医療のネットワークがあればこその事例だが、そもそも、そこにたどり着くまでに、診断もついておらず、主治医もいない状況で、誰に相談するべきだったのだろうか。
コロナ禍で、医療者の不足がいわれ、さまざまな事情で第一線を退いている看護師らの協力をあおぐこともあったが、日常から前述の相談所があるということが知られ活発に利用されていれば、患者や家族の意思がもっと尊重されるのではないかと考えた事例だった。

<2021/11/9 掲載>