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第56回 MINAMATAふたたび2021:10:04:05:50:43
産経新聞大阪本社 地方部編集委員 北村 理
1960-70年代の日本を震撼させた、水俣病が今また注目を浴びている。
米国の名優、ジョニーデップが主役を買って出た映画「MINAMATA」が話題になっている。映画は、米国から水俣にわたり、現地の様子や被害者の闘争を写真で報道したカメラマン、ユージンスミスを描いたものだ。
この水俣病の原因を暴いたのが熊本大学、新潟大学医学部と、水俣病の原因となった有機水銀を垂れ流した企業チッソの附属病院の医師だ。彼らへの妨害は、国、県、市および経済団体、はては、東大をはじめとする研究者ら、およそ当時の日本の「権力」がこぞって手を尽くした。
中央の学界や経済団体は、熊本大学と新潟大学を「(一流大学でない)駅弁大学」とまで揶揄し、妨害キャンペーンを張った。そのはったりぶりは、今から見るとお笑い種だが、当時は、「国の経済発展を守ろう」と大真面目だったようだ。
これほどまでの妨害にあいながら、原因を追究し続けたのは「医師の良心」だったという。
病める人を救い、科学的な追究の手を緩めない。チッソに勤務していた医師はこう振り返っている。「会社の人間である前に、医師なのです」と。
現在進行中のコロナとの闘いでもそうだろう。それでも、一部の病院、診療所が患者引き受けに消極的だと非難されてきた。それは、感染症の怖さを知っている医師ならではの反応でもある。コロナ対策で全国一の成果を出している鳥取県では、9割以上の医療機関が協力しているという。その背景にあるのは県あげての危機感の共有と、医療機関へ負担をかけない総力戦のたまものだという。
命に直接かかわる職業としてのプロ意識、倫理観は水俣病の解明に功績のあった医師たちも現代の医師たちも同じだろうと信じる。
ちなみに、水俣を知る最近著「魂を撮ろう」(文藝春秋)はお勧めだ。同書は映画の題材となったカメラマンに焦点をあてたものだが、水俣病の原因をつきとめた医師らの闘いもわかりやすくコンパクトにまとめられている。
<2021/10/4 掲載>