第39回 がんと終活(3)2020:04:10:05:35:34

産経新聞社 社会部記者 北村 理

コロナ渦で混乱するなかでも、自宅の周辺は例年通り桜が咲いた。ただ今年は、場所によって咲き方にばらつきが多かった。5分咲きの桜から数メートル先の桜はほぼ満開。数百メートル下った幹線道路沿いは3分咲きといった具合だった。今年は、それぞれの桜が懸命に自己主張しているようにみえ、ここ1年で相次いで亡くなった4人の知人の顔に重なった。

前回に続き、3人目は60代の都内在住のキャリアウーマン。この女性の知人から私に息せき切って連絡があったのが、昨年の8月のおわり。大腸が原発で、子宮と肺に転移があるという。こんな状態にもかかわらず大きな仕事があるのでそれが終わってから治療したいのだという。とりあえず、気持ちを落ち着かせるために、私の親族も世話になったセカンドオピニオンの医師を紹介した。そこでいろいろ質問や自分の希望もぶつけ、自分の置かれた状況があるていど理解できたのか、主治医の「仕事より治療!」との指示に従うことになった。本人は手術を希望したため、抗がん剤でがんを小さくして、手術をすることになった。

抗がん剤の副作用から一時は弱気になって、代替療法に頼りたい旨の連絡があったので、やんわり「本当に自分にとって何が今必要か考えてみてください」と伝えたところ、しばらくして「がんを少しでも小さくすることだと思います。仕事に復帰したいので、やはり治療を続けます」とのことであった。これが10月のはじめ。以降、知人からの報告では、年末に手術を受けるところまでいったが、とり切れなかったという。それでも一歩前進した感触があったようで、知人のもとにはクリスマスカードが届いたと報告があった。そして1月半ば過ぎの知人からのメール。「2日前に亡くなった」とあった。この間、治療はがん治療の総本山の病院で受け、最後は家族に看取られたのだという。

これまでご紹介した3人以外にもうひとり、60代の芸能関係の女性で大腸がんになり、入院が決まった次の日に亡くなった知人がいた。1年前に食事をした際、元気で特段違和感を感じなかっただけに、訃報に接し驚いた。

前回、前々回と合わせて4人の大腸がん罹患者に触れたが、うち3人は現役のキャリアウーマン。増加しているといわれる大腸がんの現状に直面し、そして、就労とがん治療について考えさせられる日々が続く。

<2020/4/10 掲載>