第30回 夢を託して。2019:02:23:17:13:52

産経新聞社 社会部記者 北村 理

私事で恐縮だが、娘がこの春から看護大学に進学することになった。

けっして自ら志願したのではなかったが、親からみれば、テキパキしていて気働きができる性格から、むいていると思い、ことあるごとに「今一番必要とされている職種」などといってはすすめてはいた。そうこうするうちに、母親がくも膜下出血で倒れたり、祖父ががんで闘病生活をはじめたりして、医療者の治療とケアがあってこそ命が救われるという経験をしたことが背中を押したのか。昨年末に行われた面接試験を前にして、ひがな一日、「終末期...、在宅医療...、リビングウイルとは...」などと、ぶつくさ練習をはじめた。

「へえ~、そんなこと勉強するんだ」と感心して聞いていた。いささか、お勉強に難がなかったわけではなかったので心配したが、演劇部を3年間やり通したし、剣道2段もとっていたので、図太さが奏功したのか合格した。フタを開けると、娘だけではなくて、知っている同級生はみな看護大学もしくは看護専門学校に進学していた。世相なのかもしれないが、みなで切磋琢磨して高齢化社会をになう中核になってくれればと願っている。

その娘と、ひさしぶりに映画(DVD)「神様のカルテ」をみた。
話は医師不足の地方都市で365日24時間を標榜する、いわゆるコンビニ病院が舞台。
主役のドクターはまだ5年目の若手医師。治療をてだてがなく大学病院に見離されたという設定のがん末期の高齢患者をみることになり、治療とケアの狭間で迷子になりかける。そうこうするうちに病状が進行し、患者は寝たきりになるが、同僚の医師、看護師や介護士の連携で、古里がみえる病院の屋上で最後の誕生日を祝うことができた。亡くなった後に主人公の医師に残した手紙には、「家族もなく、夫に先立たれた矢先にがんを宣告されたうえ、手遅れといわれ、絶望したが、最後の最後で想像さえしなかった幸せの時をすごすことができた。本当に生きていてよかった」と感謝の言葉が述べられていた。

娘は黙ってみていたが、何かを感じていてくれたのだろうか。4年後が楽しみだ。

<2019/2/23 掲載>