第29回 ひょうたんからこま2018:12:07:05:39:39

産経新聞社 社会部記者 北村 理

小欄の27回目でふれたが、現在、産経新聞で在宅医療の現場のレポートを掲載している。執筆者の女医さんが診療所のブログで母親の看取りの話を書いていた。内容は少々変わっていて、母親の様子も医師の視点でつぶさに書いているのだが、私の目には、4姉妹のドタバタ振りが目についた。というのも、当の夫婦の表面上の態度が、あまりにもあっけらかんとしており、それだけに、周囲がやきもきさせられていたからだろう。

母親は初診の段階で末期の乳がん。抗がん剤治療を受け始めるのだが、副作用が出始めて「つまらない」といってやめてしまい、サプリメントや占い系に頼りだした。もともとそういう人で、ふだんから家族は振り回わされていたらしい。父親も、ある意味似たもの夫婦で、一時は別居したものの夫婦仲はよく、妻の様子を見守っているばかりなのだ。

4女が小説家なので、この一風変わった家族の看取り話を書いてみたらと言ってみた。
そしたら、ほぼ1年後の今月、光文社から「有村家のその日まで」という書き下ろし小説として本当に出版されてしまった。書き手は40歳そこそこ、主婦でも母親でもある生活感あふれる描写なので読みやすく、しかしながら、2女の女医の視点もそこかしこにあるので、在宅医療の入門書としては、繰り返し読み返して理解を深める題材でもあると思う。

小説の登場人物は、1男2女と夫婦、そしてそれを取り巻くそれぞれの家族や友人達なのだが、最後の最後は、夫婦の2人きりのシーンでクライマックスを迎える。現実のできごともそうだったらしい。体調の変化を察知した訪問看護師に呼ばれ、お茶の間から妻のベッドに向かった夫は、あたふたとしながらも、最後は腹をきめて、妻に最後の言葉をかける。
「愛しているぞー」(実際は『愛してんどー』だったらしい)と。

母親や妻を見送った家族は、またそれぞれの生活にもどるのだが、自由奔放な母親もしくは妻とのできごとを通じて、それぞれが、自分たちの行く末に思いをはせる。自分らしく生きることの難しさと、結局は本人の意志でしかないということと。でも、自分らしく生きるためには、誰かの手助けも必要なことも学んでゆく。
もし良ければ、「有村家のその日まで」(光文社)を手にとってみてください。

<2018/12/07 掲載>