第22回「患者の遠慮、医師の指導不足でかさむ医療費」2015:07:13:07:47:10

産経新聞社 社会部記者 北村 理

知人の高齢男性が地元の公立病院で大腸がんの手術を受けた。転移もなく、主治医からは「切れば大丈夫」といわれ、開腹手術をした。そして術後、主治医から「もうなんでも食べて大丈夫」といわれ退院した。もともと、畑仕事もし、ゴルフ、テニスをたしなんでいて、毎日数キロは必ず歩くという生活をしていただけに、主治医の言葉を真に受けた。

2週間後、腸閉塞の症状が出て、発熱。一時は、意識がもうろうとし、ICUに入れられていた。1週間後、ようやく病院食をとれるようになった。この間、知人のつれあいから、涙混じりの相談を受けていたので、気になって、経緯をきくと前述の通りである。

いまどき、パソコンの検索で「大腸がん」とうてば、術後の過ごし方の注意事項などやまほど情報がでてくる。どうも、知人は、主治医の「大丈夫」という言葉に安心してか、疑問をもたずに、自ら調べることはしなかったらしい。そのことも問題であるが、主治医が、術後の注意事項を与えなかったということは見過ごすわけにはいかない。知人の家族を通じて、やんわりと病院に注意喚起をしてもらうことにした。

きけば、この主治医は、患者へのあたりがソフトで評判は悪くないらしい。しかし、大術後の「基本のき」を知らなかったとすれば、「いい先生」などといってはいられない。

ところで、知人の家族には、がんの治療経験者もおり、腸閉塞ときかされてから、はじめて事情を知り、激怒した。知人は「心配するから」と、がんの手術を受けたことを黙っていたのだ。がんを経験した身内は、大腸とは別の部位のがんだったが、治療後の指導は、いつの時期に、何を食べるべきかというきめの細かいアドバイスを受けていたらしい。

ひところ、がん治療の技術に地域間格差が大きく、治療技術の均てん化の必要性がいわれていたが、患者のQOLへの理解も均てん化を進める必要がありそうだ。

知人には、治療前に、セカンドオピニオンも進めた。元気とはいえ高齢で、治療がうまくいっても、その後のこともあるので、大腸がんの治療の実績が高い病院での治療も視野にいれるべきとアドバイスしたつもりだったが、知人は「みてもらった医師に申し訳ない」といってきかず、結局は、大騒ぎになった。

根拠のない患者の遠慮、医療者の指導不足で、いらぬ医療費がかかる。後期高齢者が増える2025年に向けて国民レベルでの意識改革が必要のようだ。

<2015/07/13 掲載>