第15回「コミュニケーションギャップの解消も治療のうち」2014:02:23:15:26:39

産経新聞社 社会部記者 北村 理

障害者雇用促進のために、企業の雇用形態として「特例子会社」というのがある。
従業員が50人以上の場合、障害者の雇用率が全従業員の2%を占めることが義務づけられているのだが、企業が「特例子会社」を設け、そこで、障害者を雇用することも認められている。

その特例子会社を取材したときのこと。担当者が「思わぬ副産物があった」と話してくれた。本社で働く「おやじたち」のコミュニケーションギャップの解消に役立ったというのだ。特例子会社で雇用されているのは知的障害者が主だった。事故なく日々元気に働いてもらうために、コミュニケーションをどうとればよいか試行錯誤の連続だった。そのなかで、担当者がハタと気付いたことがある。

本社では「なんとなく分かったつもりで...」仕事をしている。その担当者は女性だったから、とりわけ、おやじ社員とのコミュニケーションギャップには日々悩まされていた。そこで、担当者は特例子会社で日々奮闘してきた成果を本社に持ち込んだ。すると、本社の風通しが良くなったというのだ。
とりわけ第三者の視点が重要だ。直属の上司と部下のふたりが「なんとなく分かったつもりで...」仕事をすることがマイナスに働けば、人間関係にまで発展してしまう。それで、がんの罹患者が退社にいたるケースは少なくない。たとえば罹患者がヒラ社員の場合。課長は「いいよ、いいよ。具合が悪くなったら休んでいいから」という。その言葉を真に受けて、休んだら職場環境が悪化した。なぜか。そのラインの次長(罹患者の直属の上司)の理解と、課長の理解が違うからだ。

本来なら、産業医も交えて、その罹患者がいるライン全員が共通認識を持つ場をつくるべきだろう。このことは、その罹患者のためだけではない。いつか自分もその立場になりうるであろうことへの意識啓発にもなる。会社の就業規則や制度をあらためて認識する良い機会ともなりうる。罹患者にもしものことがあったときのバックアップもできると、そのラインの停滞も少なくなる。ひいては、会社全体の利益にもなる。そういった企業風土ができれば、ワークシェアリングもスムーズにできそうだ。そうすると多様な人材が会社に集まる...。といった「良いサイクル」が生まれる。

ワークシェアリングが根付いている事例は外資系企業に多いが、彼らに秘訣をきくと、「トップの意識次第だ」という。本来、「良いサイクル」をつくるのは経営者の仕事だ。
ある外資系企業では、社長が毎日のように社員にメールを送り、「良いサイクル」を醸成し、維持する努力を呼び掛けているそうだ。

いまや、がんは罹患数が増えているという医療問題だけでなく、社会のありようを写し出す鏡にもなっていると考えていいだろう。上記の特例子会社は「人材」を「人財」と記す。社是は「仕事をするうえで障害はない」だ。

<2014/02/23 掲載>