第2回「カプラン・マイヤー生存曲線の示すもの」2014:01:07:16:03:12
星ヶ丘厚生年金病院 院長補佐・外科主任部長 がん横断的チーム医療センター 辰巳 満俊
いささか重い話です。
今年の3月11日(あの大きな震災の起こった日)通勤途中の車のラジオから川崎洋という詩人の"存在"という詩の一節が流れてきました。
存在
「魚」と言うな シビレエイと言えブリと言え
「樹木」と言うな 樫の木と言え橡の木と言え
「鳥」と言うな 百舌鳥と言え頬白と言え
「花」と言うな すずらんと言え鬼ゆりと言え
さらでだに
「二人死亡」と言うな 太郎と花子が死んだ と言え
ラジオで伝えられたのは最後の2行でした。
皆さん右のようなグラフをご覧になったことがあるでしょう。
これはToGA Studyという胃癌でHER2というタンパクが発現している患者さんに対して既存の化学療法にハーセプチンという薬剤を併用するかどうかで治療効果にどのような差がみられるか臨床試験の結果を示したものです。
こうしたグラフは生存曲線といって、例えば各施設の診療成績を紹介するときや新しく開発されたり改良された治療法が従来の標準治療と比べるときに用いるもの(統計学的手法)です。たいていは下り階段のようなグラフになっています。
さてここでこのグラフについて考えてみましょう。
横軸は時間(生存期間や再発までの時間)、縦軸は患者数。
では曲線でできた面積が表すものは何でしょうか?
たとえば学生の頃に教わった積分を用いて、
グラフをfxとすると、∫fx =
と標記されます。
グラフの面積で表されるもの
それは臨床試験に参加した患者さんの治療を受けてこられた時間になります。
この面積を広くすることが我々医療者の仕事です。
さらにこの平面で示された面積には患者さんそれぞれの日常の暮らし、喜びや悲しみで作られた厚みがあります。
もう一度積分してその厚みを求めてみます。
∫(患者さんが治療を受けた時間)= ?
これは 人生 ではないでしょうか。
我々は、そのグラフの意味するもの、その重みを考えます。
多くのがん患者さんの治療に携わりながら、
ひとり一人の患者さんの人生やがんとの闘い・がんとのつきあいを記録することが我々の仕事であるのだと考えます。
<2014/01/07 掲載>