第14回「大切なことでふだん忘れていること(4)」2013:12:10:13:42:21

産経新聞社 社会部記者 北村 理

先日、取材で某病院の外科部長にお話をうかがった。
テーマは、がんの先端医療についてだった。

ふと、「外科医ってやはり手先が器用でないとだめなんですかね」ときいてみた。知人の外科医が、若い頃、ひまがあれば、片手で靴のひもを結ぶ訓練をしていたといっていたのを思い出したからだ。

部長先生はちょっと小首をかしげて、ニヤリと笑った。
「そんなことより、ココですよ。ココ」と指先をみると、自分の頭を指している。
その質問、わが意を得たりという仕草だった。

部長先生、どうも今の若手医師に云いたいことがあるらしい。「ちょっと、オツムのレベルが...」とおっしゃる。ストレートに。「医学部でて、医師免許とってるんですよね」ときくと、お勉強の善し悪しではなく、人間としての「知的瞬発力、知的体力」のことにご不満の様子。「そもそも患者に負担をかけないためにも、手術は手際よく無駄なくやる必要がある。そのためにはどれだけうまく戦略をたてれるかということなんです。それがどうも...」と。

原因はなんだろうとプチ議論をした結果、「ゆとり教育、偏差値教育のたまもの」ということに落ち着いた。超マイペースで世間知らず。「医師のくせにiPS細胞も知らないのがいた」とか。医学部へ進学し、免許をとっても、「一人前になるのに10年かかる外科などしんどい科はイヤ。早く出世できる●●科とか▽▽科とかにいってしまう。やり甲斐より生涯賃金が気になるらしい」。旧帝大でもその調子だから、大阪や東京のような人材に困らないはずの都心の病院でも、地方大学の医学部に頼らざるをえない。すると、今度は地方に外科医がいなくなる。

「先生の病院に患者が集中していいじゃないですか」といったら、部長先生は「まあね、競争に勝つために先端医療をウリにしているとこもありますが、患者の集中もよしあしで、今度はうちの病院の患者さんの待機時間が長くなる」。

がん医療でいうと、外科医の負担は2倍になっているという。国が、将来のがん治療のあり方といって青写真を描いても、担い手がいなければ動かない。腫瘍内科医もしかり。医師の海外流出の動きも目立ってきた。

最近の医療の話題というと、患者の話に耳を傾けるという良い傾向が定着してきたが、医療の根幹を担うのはやはり医師。しかも世界で最高水準であることを考えれば、ちょっと真剣に医師の話にも耳を傾ける必要がありそうだ。


<2013/12/10 掲載>