第1回「薬剤師という職業をご存じでしょうか~がんチーム医療にかかわる薬剤師」2012:09:26:18:12:00

八尾市立病院 事務局 企画運営課
薬剤師・診療情報管理士・医療情報技師
小枝 伸行

薬剤師は、薬剤師法という法律でその任務が決まっています。この薬剤師法の第1条に薬剤師の任務が定められており、「薬剤師は、調剤、医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどることによって、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。」となっています。
医師はというと、医師法でその任務が定められており、「医師は、医療及び保健指導を掌ることによって公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。」とされています。
この任務を見比べてみると、医師と薬剤師の違いは、医師が「医療及び保健指導」となっているのに対して、薬剤師は「調剤、医薬品の供給その他薬事衛生」という部分が違っているだけで、「公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保する」ことが共通の目的となっており、法律上、医師と薬剤師は同じ目的を達成するために担当する分野が違っているのです。つまり、薬剤師は、医師と協力して国民の健康な生活を確保するために日々働いている職業です。

今や日本人の3人に1人が、がんで亡くなっていると言われる時代です。しかし、医学の進歩により、早期に発見して適切な治療を受ければ、そのほとんどが完治する時代でもあります。それだけに、がん治療に対する関心が高くなっています。がんの治療にはいろいろありますが、薬剤師が「がん」の治療という分野でどのように関わっているのでしょうか。

薬剤師と聞くと、薬屋さんや薬局で薬をくれる人というイメージになりますが、薬剤師と一言で言っても実際にはさまざまな分野、場所で活躍しています。皆様に多く関わりのある薬剤師は、調剤薬局(街の薬局で働く)の薬剤師と病院薬剤師(病院で働く薬剤師)と大きく二つにわかれます。それぞれは薬剤師が「がん」の治療にどのように関わっているのでしょうか。

病院薬剤師の業務の一つに薬の情報を管理する仕事があります。例えば、がんの手術を行う場合、手術前には服用を中止しないといけない薬があります。これらの薬を中止せずに手術を受けると、手術がうまくいかなくなるなど、いろいろな問題が起こる可能性があります。手術を受ける患者さんが、多くの薬を服用している場合、その中からどの薬をどのぐらい前に中止しないといけないのかなどの情報提供を行っています。

k_01.jpgまた、手術を受ける一部の患者さんには、静脈の中に血のかたまりがあって、手術後にその血のかたまりが血液の流れにのって肺で詰まってしまうと、大変危険な状態になることがあります。このようなリスクが高い方に対しては、手術後に予防として薬を投与する場合があります。これらの薬の中には、腎臓の機能により薬の量を調整する必要があるものがあり、この量を医師にアドバイスします。さらに、手術後の痛みや手術後の感染症予防など、薬を使用する場合に安全に使用できるように医師にアドバイスを行っています。

最近では新しい抗がん剤が続々と開発されたことや新たな治療法が開発され、がん治療のレベルがどんどん高度になっています。抗がん剤による化学療法は多くの薬を組み合わせて行うことが多く、複雑になっていて、抗がん剤の過剰投与や誤投薬などによる、医療事故や重大な副作用が発生するなどの危険性が高くなっています。

k_02.jpg患者さんが安全に治療を受けることができるように、病院では多くの専門的知識をもったスタッフが関わることでその安全性を高めています。病院で働く薬剤師は、入院や外来で使用する抗がん剤の投与スケジュール(プロトコルやレジメンと呼んでいます。)を管理する仕事をしています。医師がどの投与スケジュールで治療を進めるのかを決定すると、薬剤師が、きちんと予定どおりに投与が行われているか、投与量に間違いがないかなどを確認して、薬の調製を行っています。もちろん、スケジュールどおりに継続して治療を続けるために、薬を安定して調達する仕事も行っています。さらには、抗がん剤による副作用を未然に防ぎ、早期発見を心がけながら、薬の説明を行うことも仕事の一つです。

k_03.jpg一方、調剤薬局で働く薬剤師のイメージは、医師が発行する処方せんをもとに、薬を調剤(調合、調製)して出してくれる白衣の姿だと思います。調剤薬局の薬剤師は、処方せんにより薬を調剤し、お渡しすることだけでなく、複数の病院や診療所で処方された薬の飲み合わせをチェックし、さらには、薬物治療の身近な相談者となって、服用状況の管理、副作用の症状や発生した時の対応、市販されている薬の選択やサプリメント、健康食品などのアドバイスを行っています。何か気になることがあれば気軽に相談できる、それが調剤薬局の薬剤師です。

最近の抗がん剤治療法の一つとして、注射薬は病院で、飲み薬は自宅で、といった治療法が出てきています。
全国の半数の病院では、注射を病院の外来で、内服を院外処方せんの発行により自宅で管理するといったことも少なくありません。ここで活躍するのが、調剤薬局の薬剤師です。抗がん剤の服用の管理や副作用のチェック、対処法の相談などの仕事をしています。がんの治療中に風邪をひいたり、下痢をしたりといろいろな病気が発症することもありますので、その時にどうすれば良いのかを相談することも可能です。
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がんが見つかると、手術や抗がん剤の化学療法、緩和ケア、放射線治療など様々な治療を行います。この治療の選択は、医師と患者さんとがお互いに納得したうえで進められます。治療方針が決まると、それにもとづいて治療が進められますが、多くの治療には薬が欠かせない存在になっています。

薬が関わるところで治療の安全を守る仕事をしているのが薬剤師です。そこには、病院で働く薬剤師と調剤薬局で働く薬剤師に区別はありません。

今、チーム医療が医療現場で主流になっています。様々な医療スタッフが連携し、それぞれの専門分野で治療を支えていくことが重要になっています。
今後、団塊の世代が高齢になって行く時代で、ご自宅に居て治療を受けることのできる医療体制整備が国の方針として示され、その体制整備が急がれています。地域において、医師や訪問看護ステーションの看護師、ケースワーカーなどと共に薬剤師の活躍が期待されています。今や薬剤師は、「より臨床現場に」というスローガンのもと、在宅や介護の分野にも進出しています。

あなたの治療に身近な薬剤師を是非、ご活用ください。

<2012/9/26 掲載>