第1回「患者家族の知りたいこと・医師の伝えたいこと」2011:05:28:19:19:07
星ヶ丘厚生年金病院 院長補佐・外科主任部長 がん横断的チーム医療センター 辰巳 満俊
私は1990年代に胃がんの分子生物学からみた浸潤・転移の研究をしていました。現在も消化器がんや乳がんの診療に携わっています。
がんの進展(増殖や転移)にはがん細胞がその細胞内や細胞表面に発現させる種々のタンパクが関わっているとされています。
私たちは当時特定のタンパクを作るがんがそうでないものと比べて悪性度が高かったり、特有の転移を起こしたりする可能性を探っていました。直接的の成果ではないものの、その頃のいろいろな研究が今日の分子標的薬の開発につながったと思います。
さてその頃、母が腎癌を発症しました。
一連の経過中に家族という立場で見ると、医師として普段患者さんやその家族に病気や治療に関して自分が伝えたいことと、患者家族として医師から聞きたいことの間にずれがあることを感じました。
まず治療を始めるとき、医師は患者さんや家族に現在の病期(進行度)などの病状やその状況で推奨される治療法を他の治療法と比較しながら話します。
ところが患者や家族にすると"がん告知"という衝撃的なできごとの後の頭が真っ白な状態で医師の言葉が入らない。私たちはお話をした後に、"何か質問はありますか?"と伺いますが、あまりいろいろと考える余裕はないかもしれません。
そうして手術や化学療法といった最初の治療が始まります。
ところががんの診断で最初の治療(手術など)が奏功しても、残念ながら再発や転移が見つかることがあります。
こうした病態の変化でたとえば手術・化学療法など治療法が変更されていきます。痛みや辛さといった症状によっては、緩和医療が加わります。
そこで患者・家族は医師から自分たちの知りたい情報を伝えられているのだろうか?その治療方針変更の決定に参加できているか?自分たちの意志が反映しているか?
そうでなければ、この治療の流れは一体誰によってregulate(調整)するか?
患者家族と医療スタッフが共に"We"で治療を進める、そんな議論ができる場があればなと考えています。